イエローポイントについての考察

今回は水抜きフェーズの最終地点、俗にイエローポイントといわれる段階について考察してみたい。
一般的な解釈は「水抜きフェーズによって生豆から十分に水分を抜いておけば、その後の焙煎がムラなく進む」というものだと思うが、僕はこれは俗説だと考えている。もし本当であれば「超高速ノルディックロースト」は成り立たないはずである。

さて、まずこのグラフを見て頂きたい。
MoistureContent-RoastTime

これはスコットラオの著作 「THE COFFEE ROASTER’S COMPANION」の30ページに掲載されているグラフで、生豆を焙煎していく中で、コーヒー豆の中の含水量が焙煎するにつれてどう変化するかを表したものである。縦軸の単位が明記されていないが、どうやら1目盛りが2%で約13分半で深煎りにしていったときの実験データがプロットされている。最初12%強から開始して、最終的に2%を切っているわけであるが、注目すべきは含水量は最後まで一貫して減っているという事実である。前半に減少速度が速い、微かな逆イールド・カーブになっているのはある意味当然であろう。

Drying Phase, Middle Phase, Development Timeという3つのステージについて、彼の本の中には以下の説明がある。

「水抜きフェーズという言葉は誤解を呼びやすい俗説である。水抜きは焙煎の間つねに発生している。ただ、十分に含水量が減って豆が少し黄色っぽく(shade of tan)になると、豆が膨らみ酸や芳香が生じ始める。メイラード反応は121~149℃で活発だが、約171℃に達するとカラメル化反応が始まり、ショ糖(還元糖)を横取りするためメイラード反応は(燃料を奪われて)速度が鈍化する」

また別の本で、彼は焙煎を4つの段階に分けて説明している。つまり、

  • Drying Phase (水抜きフェーズ)
  • Browning reactions (メイラードフェーズ)
  • Development time (カラメル化フェーズ、最終フェーズ)
  • Carbonization (2ハゼ後半からの最終フェーズ?)

さて、話が長くなってきたが今回僕が行った実験は、僕がこの水抜きフェーズの終わり(DE)としている160℃の前後で、実際に豆の色はイエローポイントになっているのか、である。

クロロフィルを含有することで生豆は緑色を帯びているが、これが熱分解されて黄褐色になっていく、とされているが、実際はどうであろうか。実験では、CR600焙煎機を使って、135~175℃の間、5度おきに Trierで少量のサンプル豆を取り出していった。イメージは以下の感じ。なお焙煎では最初にガッと熱を入れた後は、RORを落として、意図的にDEまでの時間を長引かせている。
YellowPointTestエルサルバドル
テストに使ったのは、非常に火が入りやすい中米産コーヒー代表、エルサルバドルの水洗式生豆である。これをシナモンローストにするまでに少しずつ取り出したのが下の写真である。
色の変化を見やすいように、真ん中に焼き上がったコーヒー豆のサンプルを置いてみた。

イエローポイント確認(エルサル・通常)

次にこの豆を50℃のお湯と水でしっかり洗って水分が増加した状態で焙煎してみた。
お湯・水洗い直後の生豆の状態はこんな感じで、焙煎してもほぼチャフが出なかった。
エルサル生豆(お湯洗い後)

イエローポイント確認(エルサル・お湯洗い)

最後が、比較的、火が入りにくい南米産の水洗式ニュークロップ、ペルーホープである。エルサルバドルに比べて生豆の緑が濃い。
イエローポイント確認(ペルーホープ)

どうであろうか。

ちょっと贔屓目もあるかもしれないが、僕の目にはどのケースでも160℃で緑の色相が消失しているように見える。

ScottRaoGraph

ちなみに、上記のScott Raoがネットに上げているグラフを見ると華氏302℃をDEとしており、これは約150℃である。なぜ僕が160℃をDEと決めたのか実は今思い出せないのであるが、やはりScott Raoの著作の中にその記述があったような気がしている。

いずれにせよ、今までの説明を振り返ってみても分かるように、水抜きフェーズやDEには明確な定義も範囲もないし、よってイエローポイントという明確な地点も実は存在しない。そして仮にイエローポイントをアグトロン値などで正確に定義出来たとしても、それにより焙煎が制御しやすくなるなどの効果があるとも思えない。

要するに理解すべきは以下のサマリーだと考えている。

  • 生豆の含む水分(10-13%)は焙煎により2%前後まで一貫して減り続ける。
  • 含水量が十分に減って、ある温度(121度)に到達するとメイラード反応が活発になる。
  • さらにある温度(171℃)になるとカラメル化反応が活発になり、ショ糖を使い尽くすことでメイラード反応は収まっていく。

してみると、僕自身も説明によく使っている焙煎の3つのフェーズとは何か?
敢えて定義するなら、それは「焙煎プロファイルを理解しやすくして、同様な焙煎を再現しやすくするため仮に置いたマイルストン」というところであろうか。

以上、勝手な意見を述べてみましたが、反論・異論などのコメントがあれば歓迎いたします。

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