生豆の水洗いの効果検証(準備編)

手網や手鍋、あるいはアウベルクラフトなどの金網・直火式といった比較的原始的な道具で焙煎されたことがある方ならご存じのとおり、珈琲豆を焙煎するとどうしてもチャフが飛び散る。チャフ・コレクター付き焙煎機であればほとんどはそこに溜まるが、それでも珈琲豆の出し入れのときなどに多少は飛び散るので、焙煎機の横には掃除機が欠かせない。

ちなみにチャフは英語で chaff、カスとかくずといった意味で、お米ならば、もみ殻がチャフである。珈琲豆の場合は、コーヒーチェリーという果実の種子の周りにあった周乳が、精選過程で乾燥されてされて種子が取り出される際に薄皮として残ったものである。生豆は英語では Green Bean、テカテカ光っている薄皮は Silver Skin (= Chaff) である。日本語で生豆だからといって Raw bean とは決して呼ばれない。 閑話休題。

さて僕が追及している家庭焙煎の世界においては、通常、以下の3つの意図を持って焙煎前の生豆を水やお湯で洗う人がいる。一方で、小規模な自家焙煎店では、故森光氏の珈琲美美のように水洗いを看板にしているところが若干あるが極少数派であり、まして大手珈琲焙煎業者が水洗い・お湯洗いをしているという話はとんと聞いたことがない。なぜであろう。

<生豆を洗う理由>
①洗ってチャフを取り除くことで、チャフの飛散量を減らす
②洗うと盛大に汚れが取れるので、なんとなく安心(残留農薬があってもなくなる?)
③味がマイルドになる。雑味が減るなどの付加価値が付く。

①はちゃんとした焙煎機であれば解決

②については迷信的な部分が大きいと考える。確かに洗うと汚れが出るが、本来は焙煎の過程でチャフと共に剥がれ落ちる部分である。ナチュラル精製やハニー精製の方が落ちる汚れは多い。じゃ、ナチュラル精製の豆はより汚くて害があるのか? というとそうは思わない。
また残留農薬が種子にまで及んでいるとは思わないが、仮に微量が残っていたとしても200℃の高温で焼く過程で無毒化されるだろう。一部の柑橘類のようにポストハーベスト農薬でも使われていない限り、まず安全と考えていいと思う。生豆に直接農薬をかけたり燻蒸したりしたら検疫でひっかかるし、味が変わってバレるはず!

さて問題は③である。一般的には、洗うことでフレーバーは少しぼやけて、穏やかな味になると考えられている。この点は付加価値というより味作りの世界で、好みの問題である。では雑味は減るのか? 誰にとっても雑味はない方がいい。

そこで、洗う手間を掛けることの価値がどれほどあるのか検証してみることにした。
使った生豆は、ブルンジ・ギシャ農園とウガンダ・アフリカンスノーで、両方ともウォッシュト精製のニュークロップである。それぞれ600g分を用意し、水洗い用、そのまま焙煎用に二分する。なお、ブルンジの方は欠点豆が最初からほとんど見当たらないが、ウガンダは通常、300gで20-30粒程度取り除いている。

ブルンジ水洗いの様子

水洗いには回転式の野菜切りを使って、お米を研ぐようにゴシゴシとやる。グルグル回して水を切った後はタオルで残った水分を取り除き、さらに焙煎豆用の冷却機に入れて15分くらい乾かす。

ブルンジ水洗い前後重量

上の写真のように見た目はしっかり乾かしたようでも、やはり10gほどは水分が残っていることが分かる。実は次の点が水洗いのもう一つの大事なポイントで③にも通じる話なのだが、水に漬けることで欠点豆が見つけやすくなるのである。小さな虫食い跡や微かなカビなども色が濃くなり見分けやすくなる。また死に豆はより白っぽく見えるため、これも取り除きやすい。下の写真は水洗い前に取り除けなかった欠点豆である。まぁ実際は残っていても気付くほどのフレーバーのダメージは起こさないレベルの欠点豆ではある。もともと欠点豆の多いウガンダの方がより多く見つかったがそれは当然か。

水洗いで見つかった欠点豆

 

水洗い効果確認(生豆4種)
<生豆の状態、上段が水洗い無し、下段が水洗い有、見た目にはほとんど差がない>

水洗い効果確認(焙煎豆4種)
<なるべく同じ焙煎プロファイルで焼いて、同じように見える4つの珈琲豆>

ウガンダは排出温度を211℃、ブルンジは213℃で揃えた。両方ともより豆本来のフレーバーが分かりやすいミディアム・ローストである。焙煎プロファイルもなるべく揃えてみたが、熱の入れ方なのか水洗いによる水分含水量なのか、同じ豆なのに1ハゼ開始温度に結構差が出たためDTR値は差が出た。一方与えた熱量であるAUCについてはいずれも157C*min [DE: 160℃から測定開始]前後になるようにしたことで、焙煎指数的にもほぼ同じような値になり見た目のロースト度合いもあまり見分けがつかないと思われる。
Burundi_RoastProfile
<最初に焼いたウガンダ水洗いをBackgroundに薄く表示して、その曲線をなぞっている>

水洗い検証準備完了

さて、これをカッピングして味の差を見ていこうと思うが、僕の家庭焙煎仲
間の数名にもサンプル豆を提供してブラインド・カッピングして頂き、先入観のない状態で一緒に比べてもらう予定である。結果はまた近日中にブログにアップする。

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