コーヒー雑味についての考察(バンカメ・ツル編)

さて、前回のテーマの続きとなるが、お湯洗いの目的の本線はやはり雑味を減らす、ということであると仮定する。全体のフレーバーを抑えて雑味を減らす、という発想かと。


良質なコーヒーを飲み続けていると、コーヒーの味覚センサーが発達すると同時に雑味センサーも発達してくる。コーヒーの雑味を定義するならば、「主となるフレーバーに混じった余分で不快なフレーバー」といったところか。

日本人の発想は雑味を減らすためならフレーバーを多少は犠牲にしてもよいと考える。一方で、欧米人はもしかすると雑味を減らすよりは、より華やかなフレーバーで覆い隠す傾向があるのではないかと推測する。(言わばフランス人の香水の発想?)

お湯洗い焙煎の他にも、日本人が工夫してきた雑味を減らす方法は沢山あるので少し列挙してみる。ただし最近では抽出中にドリッパーを揺すったり掻き混ぜたりと相反する手法で抽出チャンピオンになったりするので、それぞれの効果のほどは不明である。結局、抽出されたコーヒー液の雑味は生豆由来の要素が圧倒的に大きいので、最初から高品質の生豆を選べばそれほど気にする必要はない、というのが真実だと個人的には考えている。

<焙煎前>
・欠点豆をブラックライトなどの様々な道具を使って、焙煎前後に徹底的に取り除く。
・欠点豆を取り除くのではなく、良豆をハンドピックで選び出す (Positive Picking駒沢ハーモニー)

<焙煎時>
・RoRを暴れさせない、なだらかな下降曲線を描くプロファイル(ナチュラルロースト)
・煙で燻さない。 
他にも、ハゼを起こさせない、ゼロハゼ焙煎なんてものあるが、これは少々特殊過ぎるか。(ぜにさわ)

<粉砕時>
・粒子が均等になるような高性能なミルで挽く。
・微粉を振るいにかけて取り除く
・粉に挽いた後に残っているチャフをブロアーなどで吹き飛ばす

<抽出時 ~ 特にペーパードリップ時>
・盛り上がる泡に雑味が浮かんでいると考えて、泡を崩さないように、落とさないように抽出していき、最後まで落とし切らずにドリッパーを外す (喫茶スクール)

・抽出時間が長引くと後半に雑味が出やすいという考えを推し進めて、前半に濃い抽出液を取り出したら、ドリッパーは外してそれをお湯で薄めて調整する。(日本ハンドドリップ協会)

・湯温を極力低くして高温で出やすい雑味を抑え、抽出率が下がる分、ゆっくりと抽出(特に点滴を多用)することでバランスをとる

・粉を暴れさせにようにお湯をそっと注ぐ(喫茶スクール)

・抽出後、コーヒーの上面に浮かんでいる泡に雑味が含まれると考えて、これをスプーンなどで掬い取る。(横須賀ツキコヤ)

・蒸らしの最中に落ちた最初の少量の濃い液体には雑味成分が多いと考えて、これを捨ててから、残りの抽出を行う。(香川の名店、南珈琲店)


どれが正しいといった議論はしないが、一つ言えるのはここまでいろいろ工夫するのは日本人だけだろうということ。そんな中で究極の雑味排除を行っている店として、福岡の珈琲美美があるが、この店のことは以前詳しく書いたので、今回はその系譜を受け継いでいる山梨のバンカム・ツルについて書きたい。

まずこの動画を見て頂きたい。
店主のネルドリップの様子である。 https://youtu.be/qE-QbpxNIuc

ここの店の特徴は、本家の美美やアームズ焙煎店よりさらに10度高い、60度のお湯に小型洗濯機を組み合わせて生豆を洗うことである。湯温については訊きそびれたが、抽出は日本固有の方式、ネルドリップ+点滴である。そして水蒸気の効果に大変拘っておられる。焙煎時に程よく焙煎釜の中に水蒸気を溜めることの重要性は間違いないと思うが、なんと抽出時にもこれが重要だとおっしゃられている。曰く、水蒸気の力があるから、ネルから最初の一滴が落ちるまでの2分近く、お湯の保持が出来るのだそうだ。大変興味深い。

<生豆の含水量を測る装置 -お米用を転用>

これはカフェオレなのです

超年季物の直火式焙煎機。

チャフ(燃えカス)の取り出し口が

まるで焼却炉のようだな。


ところで、店で飲んで美味しかったので、そこの珈琲豆を買って帰って自分で淹れてみたら、今一つだったという話は非常によく聞く。今回、バンカム・ツルの豆を3種類ほど購入してみたが、どれも明確に異なるフレーバーがあり確かに美味しい。お湯洗い焙煎にしてはフレーバーもしっかり出ており、特にケニアは驚くほどほど「ケニアらしい」力強い酸味が感じられて、思わずこれは真似してみたい、と唸ってしまった。
昨今の3rd Wave系のブルーベリーなどの柑橘の酸味ではなく、何とも言えない深煎り豆のもつ重厚で旨味のある酸味なのである。

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