デイリーな珈琲の抽出方法としては、後片付けの簡便さから最終的に大半の人が、ペーパードリップに落ち着くだろう。但し、ペーパードリップといっても、ドリッパーの形状、ペーパーの種類、そして抽出法には様々な手法がある。しかし結局、抽出の目標は以下の2点に集約される。
①焙煎豆が含む成分をバランスよく取り出すこと
②安定して同じ味が再現できること
教科書的には大きく透過法(濾過法)と浸漬法に分けられるが、完全な浸漬法はあったとしても、完全な透過法というのは物理的に困難である。敢えて言えば点滴抽出がこれに相当するが、湯溜まりが一切できないように、最初から最後まで点滴だけで一杯分を抽出するためには大変な根気がいる。この場合、たいていは濃く少量を淹れてデミタスで飲むか、それにお湯を足して濃度調整するか、となる。ちなみに、後者の薄める方法は日本ハンドドリップ協会が推奨しており、全体の1/3量をドリップ抽出した後に、2/3はお湯で薄めなさい、と勧めている。この手法では特に深煎りでは明確にスッキリした味わいになるが、抽出率が下がるため同じ粉の量では薄く感じることが多い。
それはさておき、少なくともペーパードリップ=透過法というのは正しくなく、ペーパードリップを使えば、浸漬法と透過法の比率を色々変えれるよ、というのが事実だろう。
例えば極端に浸漬法に振ったのが、クレバーやHARIOのスイッチであり、方式的には全くの浸漬法であるが、フレンチプレスのような後片付けの面倒くささを解決している。
さて、今回の主題は抽出メソッドである。自分がやってきた以下の5つのメソッドについて自分なりに考察してみたい。なお、実際のコーヒーの味わいは、メッシュ(挽目)や湯温、濃度、そして水の品質(PH)で大きく変わり、むしろこちらの方が影響は大きいと思うが、キリがないので今回は割愛している。
(1)伝統的な抽出方法
10年くらい前までは、ほとんどの本に押しなべて書かれていた方法である。要約するとこんな感じか。
– 平らにセットした珈琲粉に全体を湿らせる程度にお湯を注いで20-30秒蒸らしてドームを作る
– 最初は小さな「の」の字を描きながら、なるべく細くお湯を注いで抽出していく
– 粉を暴れさせたり珈琲粉の層を崩さないように、かつ膨らんだ粉の状態を保ちながら、だんだんと「の」の字を大きく注いでいき、目標量に達したらお湯を残したまま素早くドリッパーを外し、上に浮いているアクを入れないようにする。粉の状態がよいと、2段、3段ロケットのように、お湯を注ぐ度により新たなコーヒードームがより高く盛り上がるのが実に気持ち良い。
(2)ALLPRESSのやり方
エスプレッソで有名なのALLPRESSである。ここの手法は有名ではないかもしれないが、展示会で試飲した珈琲が美味しく、頂いたカードに書かれていた方法が明快だったため、取り入れてみた。
– 挽いた豆の倍量のお湯を注いで30秒蒸らす。
エスプレッソで有名なのALLPRESSである。ここの手法は有名ではないかもしれないが、展示会で試飲した珈琲が美味しく、頂いたカードに書かれていた方法が明快だったため、取り入れてみた。
– 挽いた豆の倍量のお湯を注いで30秒蒸らす。
– 残りのお湯を中心に向かって注ぎ、蒸らす工程を含め、2分45秒ですべてのお湯を注ぎ終える。
(3)井崎英典氏のメソッド
https://hidenori-izaki.com/
NHKの逆転人生で一躍有名になった井崎氏の手法は、従来の方法から見ると完全に逆を行くもので、以下の特徴がある。
– 蒸らしに使うお湯はタップリめ(全体の20%)
– 途中でドリッパーをグルグル回す
– コーヒー粉の層は崩し続ける。ペーパーにもお湯をしっかりかける!
なお、類似方法として、ドリッパーをグルグル回す代わりに、抽出中の粉をスプーンなどで掻き混ぜる方法もあるが、この方法は最初、確かオーストラリアの抽出世界チャンピオンがやったんだったかな。
(4)粕谷哲氏の4-6メソッド
これは最近僕がしばしば使う方法である。狙った味を安定して出す、という意味では秀逸な方法である。デメリットとしては、抽出時間が長い分、過抽出気味になり、くどい味になったり、少しえぐみが出てしまうことがあることであるが、最良の状態の珈琲粉であれば、余すところなく成分を取り出す方法として素晴らしいと思う。ただし3分半は少し長い。
(5)堀口俊英氏の20ml-10秒リズム抽出法
大御所の堀口氏の最新著作「THE STUDY OF COFFEE」に書かれている手法で、240mlを抽出するなら、毎回20mlのお湯を注いでいる時間も含めてずっと10秒間隔で注ぎ続けて、トータル15回、300mlを注ぐと、一杯分240mlの珈琲が出来上がる、というもので、ぶれる余地もなく機械的に抽出できるので初心者にも大変分かりやすい。
さて、この5つのメソッドを比較して共通部分と矛盾する部分を取り出して、特に特徴的な部分を黄色く色づけしてみた。うーむ、うーむ。なんだか何が正しいのか分からなくなる (^^;
機械的な手法で安定した抽出を目指す |
これをもってしても分かるように、ペーパードリップだけ取っても、抽出方法に絶対はないことが分かる。結局、色んな手法を試しながら、一番心地よく継続できる自分のスタイルを見つけていくしかないのだろう。ちなみに僕は毎日5,6杯はペーパードリップするが、どの方式でもなく、焙煎度、粉の状態などから無意識に各手法を組み合わせたり、微調整しているように思う。
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閑話休題
珈琲焙煎を理解する際に、焙煎機の種類や特徴から入ると混乱するが、豆温度、RoR、最終的な排出温度と焙煎度で味は決まる、と共通的に考えると分かりやすい、というのが僕の持論であるが、抽出においても、お湯の温度、お湯と粉の接触時間、の2点で捉えたほうが結局は分かりやすい。これはJ.C.Q.A.コーヒーインストラクターの考え方である。
・コーヒー成分は水に溶け出しやすいもの、溶け出さしにくいものが複雑に含まれている
・各成分は、湯温により溶けやすさが異なる
この考え方であれば、粒度が細かいとどうなるか、湯温が高いとどうなるか、ゆっくり注ぐとどうなるか、など抽出メソッドに関係なく、なぜそうなるかが理解しやすい。
コメント
>>3
クレバーを7,8回使ってみての感想です。
全般にペーパードリップよりも簡単に甘さが引き立ち、酸味のある豆はその酸味がマイルドになるように思います。ただ浸漬時間、温度、攪拌する・しない、攪拌するならそのタイミング、など、理想形を見つけるには結構試行錯誤が必要ですね。ユニークで面白いです。複数で試飲する際などには、紙コップを並べておいて、その上をラウンドロビンでクレバードリッパーをちょんちょんと置くことで均等に配ることも簡単ですね。サーバー不要で分配できるのは便利です。
>>3
センチュリーフレンドに行くのは明日でした。今日は僕のブログを見てくれている島根県の方が、わざわざログハウスまで来てくれました。
KAZUさんも煎り上手つかっているんですね。
僕は今、煎り上手に Artisanロガーを取り付ける実験をいろいろとやっています。
そのうちブログにもアップしますが、実はこれを使ってちょっとした焙煎の実証実験をしたいと考えています。70gといった小さなバッチで、しかも煎り上手のような単純な道具でも、同じ高品質な素材(生豆)を使って、数百万~数千万円もする本格的な焙煎機と同様な焙煎プロトコルを使えれば、同じ味わいの珈琲が作れるはず、というもので、乗ってきてくれる方が100人くらい集まれば直ぐにでもGOなのですが、どうやって募集するか、それを今、試案しています。
>>2
お返事いただきましてありがとうございます。KAZU!同じです(笑)箱を見ますと、センチュリー・フレンドと書いてありました。なるほど攪拌しない浸漬式!旅行で敦賀ヘ行った時に、たまたま入った新田珈琲店ではこれで淹れておられました。今は『煎り上手』という器具で毎日豆を煎って飲んでいます。ぺーパーフィルターで淹れるのはとても難しくCLEVERにしてからは、′毎回同じ条件で淹れることができています。センチュリー・フレンドの社長さんにお会いになられるそうで!CLEVERを買われましたら、また感想をUPしていただけましたら、うれしいです。よろしくお願いします。
>>1
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KazuhiCoffee
本文
kAZUさん、コメントありがとうございます。
お返事が遅くなりすみません。
僕の名前もKAZUです、というのはさておき。(^^;
クレバードリッパーは自分では使ったことがないのですが、攪拌しない浸漬式ということで、基本的にフレンチプレスと同じ原理だけれど、フレンチプレスのように最後に絞り出す操作はなく、コーヒー液が自然に落下するに任せているので、フレンチプレス以上に浸漬式100%に近い抽出方法ではないかと思います。実際は、紙のフィルターを使うことで、微粉が混じって濁りがちなフレンチプレスとは、さらに味わいに差が付くと思われユニークですね。ということで僕も一つ欲しいです。実はクレバーの代理店のセンチュリーフレンドの社長さんと明日、会うことになっています。その場で買ってしまうかも。
いつもコーヒーについて詳しくありがとうございます。今回はい抽出方法に詳しい説明をありがとうございます。私は、amazonで購入しましたCLEVER COFFEE DRIPPER(S 小さい)という物で淹れております。
豆10gに、88度、150cc、3分
です。このCLEVER COFFEE DRIPPERという物、どう思われるでしょうか?
突然、変な質問で失礼いたします。