SCAJ2021参加レポート(焙煎機編)

KAZUHICOFFEEとしてはこれから様々な小型焙煎機について詳しくなっていきたい所存であるが、今回の展示で、特に焙煎容量1.0Kg以下の焙煎機に注目して見て回ったので、得られた情報からなどから考察を試みた。なお、騒々しい会場の中だったので、聞き間違いなどが含まれているがあるかもしれない点、ご容赦頂いたい。
焙煎量:100/200/400g の3段切り替え (投入量はアバウトでよい)
Behmor全体

米国ではGeneCafeと二分して人気のあるBehmorである。手網焙煎の次に進む焙煎機としては手頃な7万円ほどの価格設定で、電源も100V/1350Wと普通のトースターと変わらない点は大変魅力的である。米国の製品であるが、ネスプレッソマシンと同じ中国の工場で作ってコストダウンしているらしい。
まず、このサイズで400gもの焙煎できるのが嬉しい。直火型焙煎機で、熱源はハロゲンヒーター、遠赤外線を利用する。アフターバーナーもついて、よほど深煎りしない限りあまり煙りはでないそうなので、気軽に家庭焙煎をしたい人には打ってつけだろう。
焙煎モードはP1(高地産豆)~P5(低地産豆)の5種類のプリセットのみで、要するに火が入りにくい高地産の豆はゆっくり目に加熱し始めるらしい。色々な焙煎スタイルを楽しみたい向きには、ちょっと物足りないかもしれない。ただしPボタンをダブルクリックすることでマニュアルモードに切り替わり、ドラム回転速度は2段階、火力は5段階に切り替えることが出来るそうなので、多少のカスタマイズは可能そうである。

Behmor操作パネル

なお以前は焙煎ロガーのArtisanにつながるバージョンもあったが、こちらは価格が高くなり過ぎて売れず今はもうないらしい。
販売元のRoast Hutさんによると、6年間で700台ほど売ってきて、ヒーターの故障は皆無だそう。消耗部品は金網で出来ているドラム(6150円)くらい、というメンテナンス・フリーさも焙煎初心者には嬉しい。

Behmorバスケット
Behmorヒーター


Aillio Bullet R1 V2
(代理店: 株式会社ノーザン・コマーシャル)
焙煎量:350g-1Kg
BulletCharge

これが今回の調査の本命、海外の焙煎マニアに超人気の、台湾Aillio社のIH焙煎機である。デンマークデザインのその姿は、夜中にノソノソ歩き出してブーっとでも鳴きそうである。🐷
Bullet左側面

展示はノーザンさんのブースだけでなく、新製品コーナーにも置いてあったり、会場ではとても目立っていた。僕自身、以前に購入しかけたこともあり、今も検討しているので思い入れも深く、もっとも時間を割いて触らせて頂いた。ちなみに今すぐ注文してもデリバリーは来年3月以降とのこと。
まず初日にテスト焙煎させて頂いたが、このときはロガー(専用ソフトRoasTime)が繋がっておらず、投入温度が高過ぎたり、思いどおりの温度上昇が出来なかったりして、ちょっと芯が残った浅煎りになってしまった。翌日再挑戦をお願いしたら、気前よくOKしてくれたので、今度は Aillio社のWebサイトの推奨プロファイルを用意して、これをもとに焙煎したところ狙い通りの焙煎で美味しそうな仕上がりに。持ち帰った豆(恐らくコスタリカ)を翌日試飲してみたらとても美味しく、非の打ち所のない中浅煎りであった。
Bullet焙煎終了2
Bullet_Profile

最新モデルは、排出用フラップの前に飛び出しガードが付いて、最大バッチの焙煎でも冷却ザルに綺麗に落ちるようになった。またフラップにはロック機構付きがつき、片手で開けられないのは少し不便だが、代わりに半開き状態でロック出来るようになり、バッチ間でドラム内を手早く冷やしたいときには便利かもしれない。
Bulletドアロック機構

<良い点>
・単相200Vで1500Wという仕様はありがたい。家庭電源のブレーカーの配線を200Vに切り替えてもらうだけで使える。なお、会場のデモでは昇圧トランスを用いていた。
・専用ロガーは本体と双方向通信しており、火力、ドラム回転数、エアー量を本体でもロガーでも変更できるし、一度プロファイルを決めたら自動運転まで可能である。ただし、豆の排出だけは手で開ける必要があるので、完全自動というわけではない。
・焙煎豆のクーラーが取り外せるため、短時間間隔での連続焙煎が可能。
Bullet電源トランス(200V)

<気になった点>
・デモの時も再三、ロガーの接続が外れたりちょっとしたエラー表示が出たりしていたが、一般的な焙煎機に比べて電装品とソフトウェアに頼る部分が多く、信頼性には多少課題がありそうである。実際、FBグループの書き込みを見ていても、エラーの解決方法を求める投稿が多い。その点で、この焙煎機は使いこなしには多少苦労が伴うと思われる。技術情報の大半はFacebookグループなどで英語でやり取りされており、まさに焙煎マニア向けと言える。
Bullet_RoasTimeプロファイル

ノーザンさんの提示価格は本体39万5千円で、台湾から直輸入するよりは高いが、サポートの安心感を買うなら良い値段だと思う。国産の1Kg程度の焙煎機なら大抵100万円以上するので人気が出るのも当然であろう。
WExSUJI Mini Roaster 100
  (代理店: Yamato56合同会社, yamato56mandheling@gmail.com )
焙煎量:100g

SUJI_全体

写真のようにとても可愛らしいデザインの重さ5Kgのポータブルの直火ドラム型焙煎機で、LPGや都市ガスだけでなく、カセットボンベでも駆動できるところが画期的である。ただし実用的には、ボンベのガスが少なくなると火が消えてしまうので、複数のボンベを連結するガスステーションのような器具が必要となる。
SUJI_コンパクト
SUJI_温度計
SUJI_110V
SUJI_側面排気
内部に実装されている温度計は一つ、調整は火力でのみ、冷却も出来てチャフはちゃんと分離される。ただドラムの隙間が大きめのため、極小豆を投入すると隙間に嵌りこんで、モーターの安全装置が働いて止まってしまうそうである。こうなると分解して取り出す必要があるとか。
価格は約18万円と値頃感がであるが、現在は110V仕様のみで、100V仕様にして安規などをクリアさせる必要があるため、日本国内発売は未定とのことであった。
Stronghold S7X (代理店: 大一電化社 – やまのべ焙煎所)
焙煎量:150g-850g
S7X_全体
S7X_熱くない側面
<触っても熱くない側面>

韓国製のS7X焙煎機はちょっと焙煎機らしからぬ高級感のある形状で、先端的な試みが取り入れてある。基本的には熱風寄りの半熱風焙煎機のようで、熱源が、熱風に加えてハロゲンランプによる輻射熱とドラムヒーターを併用している。直火に近い焙煎、半熱風~熱風焙煎と熱の伝え方のモードを広く変化できることが最大の強みである。一方、調整パラメータの多さは、使いこなしの難しさと抱き合わせで、展示員がデモ焙煎してくれたイルガチェ・ウォッシュトの浅煎りは焙煎直後とはいえ、かなり芯残りした味であった。
S7X_焙煎中

大きさの割に最大バッチサイズで850gと小さめなのも少し物足りない気がするが、自動運転が得意なので、完成されたプロファイルさえ用意出来れば、同じ味わいの焙煎豆を次々と繰り返し作れるので、多品種の高級豆をコマメに少量焙煎ししたいといった用途には便利な焙煎機であろう。焙煎中はハロゲンランプに明るく照らされた珈琲豆が白く光って少し幻想的ですらある。焙煎音もかなり静かで、カフェの片隅などで焙煎するとオシャレかもしれない。
S7X_ハロゲンで光る珈琲豆

また、消煙装置も含んでいるので、店内や住宅街でも大きな工事なしで使えそうなところも有利な点である。ただし、単相220V/5800Wという大電力を用するため、日本で使うには大きなトランス(付属?)が必要で、これを焙煎機の横に置くためのスペースが必要となる。
S7X_焼き上がり
S7X_豆排出

<気になった点>
少し気になったのは、焙煎後は毎日700gの生豆を入れてクリーニングする必要がある、という説明である。恐らくその代わりに、定期的な分解掃除が不要、ということであろうが、700gの豆を廃棄するのはもったいない。同じ生豆を繰り返し使えるか質問してみたが、明確な回答は得られなかった。
予定価格は300万円程度で、実際はもう少し高くなる可能性もあると言っておられた。
PROBAT SAMPLE ROASTER (代理店: DKSHジャパン株式会社)
焙煎量:150-200g
Probat_Drum

SAMPLE ROASTERという名前を製品名として固有名詞化しようとしているところがプロバットが王者たる所以だろう。当然ながらとても頑丈そうな作りで、見た目もそこそこ大きいが、バッチサイズは150-200gとDiscovery焙煎機よりも小さい。ショップ焙煎なら、やはりPROBATINO(1Kg)の方が実用的だと思われる。熱源は基本的に電気であるが、LPG/都市ガス仕様もあるらしい。重さ32Kgは何とか一人でも運べるレベル。
Probatダンパー

伝統の半熱風焙煎機で、サンプルロースターだけあって焙煎中の調整箇所は少ない。基本は自動運転で。専用のモニタリング/ロギングソフトを使いレシピの保存と共有などが充実している。後部のダクト口にはダンパーが一応ついているが、例によって焙煎中は「触らない」ことが基本とのこと。冷却装置は別駆動で、冷却しながら次の焙煎を開始出来るなど、サンプルローストのニーズを完璧に満たしている。

Probatロガー2

仮にこれを家庭焙煎のような用途で使用したらどうか。価格は130万円ほどなので、オー
ディオなどの趣味に数百万円かけるような人であれば十分に射程圏内かもしれない。
CAFE ROSTO SMART700  (代理店: 有限会社センチュリーフレンド)
焙煎量: 700g
ROSTO_Smart700

こちらは実は販売者のセンチュリ・フレンドのオフィスが自宅から徒歩圏にあることが分かって、後日訪問して詳細を説明して頂こうと思い、会場では簡単にしか聞き取らなかった。最大の特徴は、熱源にハロゲンランプを使っていることで、いわば輻射熱焙煎機である。ドラムは普通に回転するのではなく順回転・逆回転とスウィングするそうである。実際には加熱には電熱コイルも併用していると書いてあるので、この方式はなんと呼んでよいのか。
焙煎中も前面パネルでタッチパネルでパラメータを操作できるが、基本は全自動モードで動かす。焙煎を色々試したい、勉強したい、という人にはあまり向いていないかもしれないが、電気だけで動作して、アフターバーナーもついて煙対策もされていることから、まさにショップローストには最適な一台かもしれない。
シリーズには、SMART1500などより大容量な焙煎機もある。
YOSANOロースター (販売: 京都 ヨサノロースター)
焙煎量:300g  (600gバージョンもある)
Yosano_Roaster

コンロに載せて使う手廻し焙煎機の高級版である。ユニオンや富士珈機の手廻しロースターは台座の軸受けをグリスアップしておかなければキーキーと軋み音が発生したりするが、YOSANOのロースターは台座側にもローラーがついており感動的に滑らかに回転する。
この感触は手廻しマニアには堪らないだろう。ドラムにはチタン製とステンレス製がありチタン製の方がずっと高いが、金属の質感を比べると特別感のあるチタン製が欲しくなる。
一番安い300gのステンレス製は66,000円と値頃感があるが、こちらはチタン製のように投入口の取り外しが出来ないため内部清掃ができないようである。僕が愛用してきたユニオンの手廻し(パンチング無)の場合、豆が焦げにくいように内側に金属の筒が入っており、外ドラムと筒の間に大量にチャフが溜まるため、分解しない限りちゃんと清掃出来ない。YOSANO製はこのような内部の筒はなさそうなので、チャフは本体を振るだけで素直に投入・排出口から出てきて問題ないのかもしれない。
五徳部分にも中央にセットしやすいように工夫があったり、オプションのドラム・カバー(16500円)が装着できたり、手廻し焙煎機としてはかなりゴージャスである。4万円ほど足すとさらにモーター駆動装置も買えるが、全部揃えると結構な価格になり、温度計などの計測器がないマニュアル焙煎機としては少々お高いか。ただ、手廻しの感触が堪らなく好き、焙煎中の音や匂いに頼った職人芸を極めたい人には最高の焙煎機の一つだと思われる。
KOGU 珈琲考具ロースター (販売: KOGU)
焙煎量:最大200g程度

燕三条生まれのこだわり回転式ロースター『KOGU 珈琲考具ロースター』という触れ込みでMAKUAKEのクラウドファンディングでデビューした焙煎器具である。
KOGU手廻し蓋開閉

大きさ、形状はアウベルクラフト焙煎器と類似しているが、こちらはカゴが金網ではなくパンチング・グリルなので、熱による変形にも強く長く使えそうである。またコンロに安定して置けるように五徳の形状にも工夫がみられる。五徳と本体の間に挟む金網は熱の拡散もするだろうが、 SIセンサー(自動消火)対策とのこと。アウベルクラフトより5000円ほど高いが、その価値は充分にありそうである。
KOGU手廻し五徳

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<番外編>
COFFEE TECH ZEF FZ-94 (代理店:ZEF Coffee Arts)
焙煎量: 100g – 2.4Kg
FZ94全体

イスラエル製のこの焙煎機は僕がカバーしたい範疇としては大き過ぎるが、展示では焙煎ロガーのArtisanが接続されていたので、つい立ち止まって話を聞いてみた。
Z94+Artisan

まず、100gから焙煎出来る、という点が魅力的である。熱源のバーナーは3本あり、それぞれON/OFFしたり火力調整したりできるそうで、これが広いバッチサイズをカバー出来る秘密なのだろう。タイプとしては直火焙煎機とのこと。
FZ94トリプルヒーター

消煙装置部分を除くと150万円(送料30万円)ほどで買えるそうであるが、これが会場特価(半額)の話なのか、通常価格なのかは確認しそびれてしまった。
あと確か、日本ではまだ販売は10台以下だが、台湾、香港、ドバイなどでは人気がある、と言われていたように思う。
FZ94消煙装置

他に、お馴染みの京都のダイイチデンシさんのNOVOの展示デモもあったが、こちらは以前にも少しレポートしたと思うので割愛したい。従来のNOVO Mark-IIが容量1Kgまで5段階の焙煎度合いであったのに対して、α – Novoという1.5Kg、8段階焙煎のバージョンも用意されたそうである。
SCAJ_NOVO

以上、長いレポートを最後まで見て頂き、どうもありがとうございました。

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