今年は待ちに待ったSCAJ展示会が2年越しで開催された。開業仕立てのKAZUHICOFFEEとしては当然、全日参加してきたので「全般編」と「焙煎機編」に分けてご報告差し上げたい。
「全般(焙煎機以外)編」
会場は以前の国際展示場から青梅展示棟に変わり、東京テレポート駅の目の前がゲートと、アクセスは格段によくなった。また会場の形も見渡しやすい長方形で、方向音痴の僕にも位置が把握しやすい。
会場へは体温測定をしてから入場し、登録手続きをすると「体温測定済」のシールをくれるので、自分の職業カテゴリにあったホルダーを選んでシールを貼って入場する。会場は程よい込み具合で大変歩きやすかった。前回の2019年は一気に中国色(雲南コーヒーが一大スポンサーだった)を増していたのが少し気になったが、今回は海外勢はやはり減った感じで、2018年以前のバランスに戻った感がある。とにかく平和なムードが漂っており、会場ではコロナ禍のことなどすっかり忘れてしまっていた。
さて、SCAJの大きな楽しみの一つに、高級なコーヒーの試飲がそこかしこで出来ることがあるが、以前のゲイシャ種一辺倒の様相は鳴りを潜めて、今回は様々の産地の様々な精製方法のコーヒーが試せたことは大変勉強になった。流行りのアナエロビック(嫌気発酵)系の発酵コーヒーは、2年前は一つのブースで特殊なコーヒー扱いであったが、今回は当然いろんなブースで提供されていた。ちなみにアナエロ発酵がなぜ強烈なフレーバーを生むかだが、これは嫌気性を好むバクテリアが好気性のバクテリアと異なる、というよりは、密閉容器の発酵で内部圧力が高まり、香りが生豆にしっかり浸透する、ということらしい。このため、わざわざ一度取り除いたミューシレージを発酵時に再度添加したりする。フルッタメルカドンのようにフルーツ酵母とか加えるともう別カテゴリになるような気もする。
毎回前面に陣取って、お馴染みのロバさんマークで雰囲気を盛り上げるコロンビア・ブースでは、今回も日替わりで合計8地域のコーヒーを試飲させてくれた。正直、ウィラ、カウカ、クンディナマルカ以外は初めて聞いた産地名であった。アンケートに答えるともらえるお土産も日替わりで、下記のように段々小さくなっていった。
もちろんコーヒー生豆の方もあちこちで展示販売していて、その地域や精製方法などのバラエティの広さ、広がりを見ることはとても勉強になった。よく見るとコロナ禍でないと思っていたカッピングイベントも多少はやっていて、僕が参加したのはスペシャルティ豆や珈琲器具で有名なDCS、雲南コーヒーを扱うMountain Mover、そして後述のボンタイン珈琲さんの3か所である。
DCSのこの珈琲は特に印象に残る非の打ち所のないフルーティーさだった。
DCSのこの珈琲は特に印象に残る非の打ち所のないフルーティーさだった。
天国のように香りのよい小川珈琲のパナマ・デボラ・ニルバーナ。いくらするのかな。
<Amazing Coffee>
ChooChooブレンドというCoE豆を組み合わせたAmazingな内容のブレンドを試飲提供
「珈琲ファナティック三神のトークショー」
最初の話は、焙煎において、SCAカッピング方法を確立させたジョージハウエル(以下GH)式と、CoEを普及させたポール・ソンガー(以下PS)式の違いがどこから来たか、という考察で概要は以下である。
住んでいる場所の違いからくる焙煎スタイルの差。GH氏はマサチューセッツのアクトンでここは意外と湿度が高いこと。一方、PS氏の方はスポーツ選手の高地トレーニングで有名なコロラドのボールダーに住んでおり、ここの標高はコーヒー産地並みの1600m以上で、気圧が0.8気圧ほどで湿度も低い。
水は熱しにくく冷めにくい性質があることから、湿度が高いマサチューセッツでは豆温度が上がりにくく、いきなり火力を上げても豆の表面だけが焦げるので、最初は弱火で、水抜きフェーズが終わったら強火にして、1ハゼ後の発熱反応に入ってからは逆に熱暴走状態にならないように早めに火力を落とす、という手法が理にかなっている。
一方でボールダーは乾燥していて酸素濃度も低いため、そもそも火力が上がりにくいために十分に高い温度の予熱が重要になる。PS氏の主張する最適なボトム(中点温度/TP)は110℃だとかで、バッチサイズが焙煎機のキャパ一杯の場合などは焙煎機の温度計などが壊れてしまうほど高温にせねばならないなど非常に困難な命題である。ガンと熱を入れた後は、一定のテンションで出来るだけRoR一定でまっすぐに焙煎する、というのがPS氏の方式である。こちらもその地域の特性と合致している、というわけである。
話はさらに夏場・冬場の焙煎に展開して、夏冬の温度差による影響は高温で焙煎することを考えればさほど問題ではなく、むしろ夏場の湿度の方が問題である、という話であった。同じ条件であれば温度の上がりにくい夏の方が焙煎に時間がかかるので、三神氏は以下のような工夫をされているそうである。
・投入量を少なく
・ガス圧を上げる
・焙煎を若干浅めに切り上げることで重くなり過ぎないようにする
次は抽出の話で、氏の定義では「甘味、酸味、苦味、フレーバー、質感といったテイスト成分を水へ移動させること」となる。この場合、同時に移動するわけではなく、酸味、塩味が最初に、次に甘味、最後に苦味が抽出されるため、濃度を示すTDS(Total Dissolved Solution)や抽出率(Extraction Yield)の値が同じでも味わいは同じとは限らない。特にメッシュを細かくすると抽出率は上がるが、味も大きく変わってしまう。氏は酸味、甘み、苦味などのバランスや明確さを示す指標として、Definition of Flavor Structure (フレーバーの明確さ)という造語を挙げていた。またAtagoなどの濃度計は温度が低いとTDSが大きくなるなど、なかなか正確に測れるものではない。そもそもSCAの定める抽出のGolden Cup Standardが最適なのか、という問題定義もされていた。ちなみに氏の提供しているコーヒーはTDS/EYなどの値はチャート外(薄い)だそうである。
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<利き珈琲選手権参加>2日目は午後一にSCAJコーヒーマイスター・アンバサダー就任式というイベントがあり、続けて開催の「利き珈琲選手権」に僕も出場することになっていたので、午前中はなるべくインパクトの強いコーヒーの試飲は控えて、なんとなく準備していた。
初代コーヒーアンバサダーに就任したAMAZING COFFEEプロデュースのExile TETSUYA氏のスピーチを聞いた後はいよいよ利き珈琲選手権。出場は23人で一回戦は4種類のコーヒーをカッピングして産地と精製方法を選択肢から当てる、というもの。僕は2問正解して準決勝進出。次の問題はベトナム・ナチュラルかブラジル・ナチュラルかで迷って土壇場で後者を選んだらベトナムの方が正解で残念ながらここで敗退。残った2名が決勝を争う形であったが、決勝問題は僕の得意なエチオピア・ナチュラルだったので、もしかしたら自分が「2021年コーヒーマイスター利き珈琲王」になれたかも、という考えが少し過ったが、まぁ世の中そんなに甘くはないね(^^; でも可能であれば来年も出たいな。
<コマンダンテ・チャレンジ参加>
ボンタイン珈琲のイベント。これは初日に通りかかったら楽しそうに見えたので、予約して最終日の朝一番に参加させてもらった。9種類のコーヒーをまずブラインドカッピングして、選んだ番号の豆を切れ味抜群のコマンダンテのミルでさらさらと挽いて、さらに好きな抽出方法を選んで実際にコーヒーを淹れる、というものであった。僕は味覚レンジの広いリッチなブレンドを作るべく浅煎り・深煎り・スパイシーの3種類(3,5,8番)を選んでブレンドして、エアロプレスのダブル・ペーパーフィルターで抽出してみたが、とても美味しく出来てちょっと嬉しかった。あとで種明かしの銘柄を確認したら、レッドハニー、アナエロビコ、ナチュラル精製という組み合わせであった。参加賞もコマンダンテの珈琲粉保存ビンと、コスタリカ
・ゲイシャ豆他3つのスペシャルティ豆と、とても豪華で感動! ボンタイン珈琲さん、どうもありがとうございます(^.^)
・ゲイシャ豆他3つのスペシャルティ豆と、とても豪華で感動! ボンタイン珈琲さん、どうもありがとうございます(^.^)
<その他、今回気になったもの>
豆を挽きながら風でチャフを飛ばして分離してくれるというアイデアもの。味わいが異なるように挽ける2種類のブレードがついて、一分間に700gも挽けるそうで、約50万円はそんなに高くないかも。いつか欲しいな。
2. ハンドミル
僕も使っているZpro/Q2のPlusmotionが今回は結構大きめのブースを出していて、日本仕様のフラッグシップモデル JPPROを盛んにデモしていた。Zproのヒヤッとした触り心地に対して、握ったときの木のぬくもりが気持ち良い。容量も35-40gに増えて実用性が向上している。ハンドルの形状はコマンダンテのものに似てきている。やはり三角形の形状の方がよいのか。
他には使いやすそうなカフラーノ社のKRINDERや、KIGUのVariaというとても高級感のあるミルもあった。あとドイツのZassenHausが各種ミルをデモ展示していて、以前ここのトルコミルを使ってた僕としては懐かしやと思っていたら、後で知ったのだが、ここの新製品Barista Proというミルはタイムモア社の製品と酷似しており揉めているらしい。そいう言えばいつもは目につくタイムモア製品の展示が今回は見当たらなかったような。
3. 生豆のAIハンドピック (Rutilea)
4.珈琲豆のサブスク (PostCoffee)
珈琲豆のサブスクで有名な米国Angel’s Cupとよく似たビジネスモデルのPostCoffeeは、何が届くか分からないサブスクと異なり、展示会場では好きなものを3つ選んで同じ箱に入れたものを売っていた。
5. 高濃度アルカリ電解水 (株式会社コアベース – info@corebase.co.jp)
pH13.2の高濃度アルカリ電解水のスプレーをコーヒー粉にかけると、あっと言う間にコーヒーオイルが水に染み出す、というデモをやっていた。普通の洗剤ではなかなか落ちなくて困っていた焙煎機のコーヒー汚れが簡単に溶けて落ちる、らしい。しかも元が水なので拭き取らなくても無害、というのがミソ。個人的にはこれは耳寄り情報であった。ちなみにダイソーでお馴染みの激落ちくんスプレーは濃度は薄いが、ある程度は落ちるらしいので、こちらもやってみようと思う。
長々と書いてしまったが、珈琲業界の人だけでなく、珈琲好きにも楽しく大変勉強になる夢のような3日間である。来年も万難を排して参加したいが、いつかは自分も小さなブースを持ってみたいな、と遥かな夢を思ってみたりする。
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