マンデリンの煎り止め判断

マンデリン・アチェ・ディープ・グリーン

マンデリン豆の特徴は、スマトラ島のテロワールがなせるものというよりは、やはりスマトラウォッシュトという精製方法に負うところが大きいと思う。そもそも、スマトラ島の湿潤な気候の中では、ナチュラル精製など乾燥に時間のかかる処理をしていたら発酵が進み過ぎるか、カビが生えてしまってどうしようもないに違いない。

ウォッシュト精製でもパーチメントコーヒーの乾燥には通常は1~2週間かかると言われており、これをスマトラ島でやったら、恐らくいつまで経っても乾かないのだろう。

そこで、とにかく3日間だけ乾かして、さっさとパーチメントを外して種子だけの状態で乾かしてしまえ、というのがスマトラウォッシュトである。

ちなみに、同じインドネシア産でも、ジャワ・アラビカで有名なウォッシュト精製のコーヒーは全く風味が異なる。ということで、やはり最大のフレーバーの違いは精製方法からくる考える次第である。


閑話休題。

そのスマトラ・ウォッシュの豆は一般に焙煎が難しいとされるが、やってみれば納得してしまう。
まずハンドピックが難しい。どこに欠点豆の線引きをするか実に悩ましい。それによりどれくらいの風味が変わるのか、雑味が増減するのか、いずれじっくり実験してみたいが今回は別の話題、煎り止めの判断について取り上げたい。

先日、お客さんからの注文のマンデリンをフルシティーローストに焙煎しようとして、うっかり浅くなってしまい、納得できずに再度焙煎した際の2つのプロファイルが興味深かったので紹介したい。

まずこちらがハイ~シティロースト程度になってしまった焙煎プロファイル
豆の排出温度は230度で、取り出したときは2ハゼがバチバチしていた。

マンデリン・アチェ・Drop230度AUC242

そしてこちらがちゃんとフルシティまで焙煎したときのプロファイル
こちらも排出時の温度は230度である。

マンデリン・アチェ・Drop230度AUC375

しかし焙煎された豆を見て頂くと分かるように、2段階くらい焙煎度合いが異なる

重量減も83%と80.5%と全く異なる。焙煎ロガーを使っているので、滅多にここまで外れた焙煎度にはならないのであるが、1回目の焙煎では、勢いのある2ハゼの音と、焙煎最中の豆の色に惑わされて、つい早めに排出してしまった。この辺がマンデリンの焙煎の難しいところか。

マンデリン・アチェの煎り止め(同一排出温度)

同じ排出温度でも1ハゼ開始から排出までの時間は3:46と5:38と全く異なり、投入熱量に比例すると言われるAUC(Area Under the Curve)の値は242と375である。

結局、煎り止めの判断は、ロガー上では排出温度(つまり1ハゼ温度からの上昇温度)以外に、1ハゼからの排出までの時間、全体の焙煎時間などを見て、さらには音、色、匂い、煙りといった状況を見ながら最後はエイヤで決める必要がある。

同じ豆どうしであれば、焙煎度合いの一致を確認するには重量減を比べるのが一番確実である。

焙煎も数をこなしていると、バッチ量が違ったり、投入温度や中点温度がかなり違ったりしたとしても、途中のリカバリーで最終的にほぼ同じ焙煎度合いに出来るものである。そのときの自分の煎り止めの判断は言葉ではうまく説明できないが、とにかく大抵うまくいってしまうから不思議である。

僕は焙煎ロガーで、焙煎に科学的アプローチを持ち込むことで、誰でも簡単に目的の焙煎が出来るようになることをモットーとしているが、結局は職人的な勘の有無で結果に差が付くことも否定できない。

そういえば、焙煎ロガー Artisanとは「職人」という意味だな。

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