焙煎中の攪拌量についての考察

先日面白い現象に出くわしたのでここに紹介する。

もし、浅めの焙煎したときに妙な酸味が出て困っている方がおられれば、是非参考にして頂きたい。

発端は、僕が提供したロガー対応・煎り上手を使ってくれているある方(S氏)からの報告であった。

自分のセットはいつも1ハゼ開始温度が高い」と何回も言われるので、熱電対の取り付け位置やArtisanの設定を色々と変えて頂いたり、僕自身も同じ条件になるように色々試してみたが、どうにも話が噛み合わず、ついに先日、検証のために僕のログハウスまで来て頂いた。

S氏は、Artisanのデザイナー機能で作成した理想形フェーズ比率のプロファイルのカーブを、見事にトレースするような焙煎をされるのだが、一方で「自分が焼いた豆が美味しいと思ったことがない」とおっしゃるのである。

そこで同じ豆をまず僕が焼いてみせて、次にS氏にいつものやり方で、同じような焙煎度合いに焼いて頂いたのが下記のプロファイルである。これだけ見たら、どうみてもS氏の焙煎の方が上手いし、美味しいコーヒーになったと思うであろう。

攪拌の違い

それぞれのプロファイルを拡大するとこんな感じである。

<S氏の焙煎>
シダマ高攪拌焙煎


<僕の焙煎>
シダマ普通攪拌焙煎

ところが実際に飲んでみると、S氏の焼いたものは妙なエグ味や酸味が出ていて、僕には非常に飲みにくい味なのである。一方で僕が適当に焙煎した方のコーヒーは期待どおりの浅煎りモカの味わいであった。

焙煎する様子を見て直ぐに気付いたのは、S氏はカーブを綺麗に描くために、投入直後から物凄く細かく振り続けることである。高攪拌焙煎である。それに対して、僕の焙煎は至って暢気で、開始から1ハゼ投入くらいまでは、1~2秒に一回、ザッ、ザッと振る程度であるが、これでムラになったことはない。

さて、この違いは何かと考察してみる。
まず、煎り上手は半熱風式の焙煎道具であることを思い出して頂きたい。

攪拌量を増やすということは、コーヒー豆の間の空気を動かし、より多くの空気を外から取り入れることになる。結果として対流熱は減り、加熱は予熱した煎り上手本体から伝わる伝導熱が主体となる。つまり加熱効率が落ちるということである。

同じ予熱であれば、伝導熱+対流熱を使った方が一気にコーヒー豆内部まで加熱が可能である。
もし予熱が十分でなく、加熱効率が低いと、コーヒー豆の芯に熱が浸透する前に、表層部の自由水が失われて内部に熱が伝わりにくくなるのではないか、というのが僕の推察である。

ちなみに超高速ノルディックローストでは、初っ端からS氏の焙煎同様に細かく振り続けるが、これは220度という物凄い予熱を与えているからバランスが成り立っていると考えている。

何はともあれ、あとは実験を重ねることで、ここでの推察が正しいのか帰納法的に検証していきたい。
現在、ルワンダ・スカイヒルという生豆を使って、高攪拌・低攪拌・超高速ノルディックの3種類の焙煎を行ったサンプルを用意して、友人のバリスタ N氏にカッピングを依頼したところである。

さて、そんなことを考えていた矢先に、別の顧客から同じような報告が寄せられたので、そちらも紹介したい。その方もかなり細かな高攪拌焙煎をされるそうで、自分の焼いたケニアの浅煎りが、「トマトのような鮮やかな酸味を期待したのに、クリア感はなく、変な香ばしさと甘さを伴ったトマトケチャップのようなフレーバーでマズくて飲めませんでした」とおっしゃられる。

そこでプロファイルを送って頂いたら、なんだかS氏の焙煎と似ているのである。
これはなんだか偶然ではないような気がするのである。

ケニア高攪拌焙煎2

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