英国製クラフト焙煎機

600g Drum roaster crafted by Cormorant England

僕が使用しているCormorant CR600は小型サイズながら、必要な機能がすべて盛り込まれた本格的な焙煎機で、操作する喜びに満ち溢れたクラフトマシンです。この焙煎機のスペックについては下記のリンクをご参照ください。

SPECIFICATIONS – Cormorant Roasters

内蔵のセラミックバーナーはドラムの下全面に広がっているため、燃焼効率がとてもよく、火力をガっと上げて短時間で豆温度を上昇させて香りを引き出したり、逆に火力を絞ってBake気味に引き延ばしながら甘味を出したりと、味作りが自由自在です。

 

CR600 ceramic burner

焙煎中に制御するのは、ガス圧、エアー(排気量)、ドラム回転速度、そして基本的には半熱風式焙煎機なのですが、Diffuserという機構で、直火傾向/完全熱風傾向を切り替えることが出来ます。焙煎中は、Artisan-Scopeというロガーを使ってプロファイルをモニタリングしながら焙煎します。乗り物に例えるならば小型スポーツカーを操る感覚で焙煎できるのです。ガス圧やエアーの調整が少々ピーキーなところも、焙煎中の心地よい緊張感を呼び起こし、いつも楽しみながら焙煎しています。

 

CR600 & Artisan-scope

ちなみに最大量の600gを焙煎すると焙煎後の豆が冷却ボールに溢れんばかりになるので、ドラムから取り出すときには床にこぼしてしまわないように、ボールを手でグルグル回しながら上手く受け止めなければならず、最後まで気が許せません(笑)。

600g of coffee beans roasted by CR600

でも一番伝えたいことは、この焙煎機で焙煎すると、少なくとも僕のやり方(ナチュラルロースト)で焙煎すると、なぜか珈琲にとても甘味が出るということなのです。なぜこうなるのかは日々実験をしたり、開発元のCormorant社にも連絡を取ったりして究明中だったりします(^^)/

焙煎中のコーヒー豆の色と香りの確認

甘味を引き出した焙煎が出来る理由として、なんとなくDiffuserの存在が大きいような気もしていますが、ドラムの蓄熱性の高さも見逃せません。豆の量が多くてもしっかり芯まで熱を入れることが出来るわけです。僕は予熱を少し高めにとって、最初の1分半はガスを切って予熱だけで焙煎開始します。

Diffuserによる対流熱のコントロール

社名のCormorantとは英語で鵜のことですが、この鳥のマークがロゴに使われています。焙煎機の正面のロゴは、パッと見は単なるロゴなのですが、実はロゴ型に抜かれた覗き窓で、焙煎中はここからバーナーの火が目視できます。ちょっとオシャレなギミックです。

ロゴの形にカットした穴から覗くバーナーの炎

 

さて、ここから僕が基本とする焙煎手順を説明します。

 

1. 焙煎の準備

まず適切な生豆を入手します。実は最重要ステップの一つなのですが、ここでは詳細は 割愛します。そしてハンドピックにより欠点豆を取り除きます。トレイに重ならない量(一度に150g程度)を振りまいては、指で筋を付けてサーっとスキャンします。次に一度左にまとめて今度は少しずつ右に寄せながら確認します。そして欠点豆を取り除いた豆をザルに入れてブラックライトを当てて未熟豆や微かな発酵豆を取り除きます。ブラックライトを当てるとなぜか目視では見つけにくい欠点豆が微かに発光するのです。

KAZUHICOFFEE流ハンドピック
欠点豆の一部はブラックライトで光ります

 

2. 焙煎機の予熱

用意した生豆の量に応じた予熱温度やその後の焙煎プロファイルをイメージします。ここは経験がモノをいうところですが、基本的には焙煎量、外気温、そして生豆の産地、標高、精製方法などを元に決めます。この焙煎機では基本は内部温度が180度になったら投入します。CR600のホッパーは大きくて優雅な形をしており、最大量の600gでも余裕です。蓄熱性の高いCR600の予熱には10分程かかります。

最大容量の600gの生豆を投入した様子

 

3. 焙煎開始

目標の予熱温度に近づいたらArtisanを立ち上げてスタートボタンを押します。僕の CR600にはドラム内温度(ET)と豆温度(BT)を計測するプローブがついており、Phidgetというボードを通してUSB変換したものをArtisanに入力することで焙煎状況が細かくモニタリングできます。ホッパーから豆を投入するとドラム内の温度が一気に下がるために、Artisanはこれを検出して焙煎モード画面に切り替わります。

 

4. 焙煎中のコントロール

焙煎には大きく3つの段階があります。

(1) Drying: 乾燥段階

生豆投入直後はドラム内温度が一旦下がり、再び上がり始めますが、この変曲点を中点(TP: Turning Point)と呼びます。そして生豆の水分が抜けてYellow Pointと呼ばれる色合いになるとこの段階は終わりでDE(Dry End)となります。このとき豆温度(BT)は150~160度です。僕はArtisanで150度を指定しています。

(2) Maillard: メイラード反応段階

香りの前駆物質が化学変化を起こしながら茶色く色づき始め、バニラやムスクのような甘い香りが漂い始めます。そしてついにはポップコーンのような大きな音を発しながら1ハゼ(FC)と呼ぶ現象が起き、豆が大きく膨らみ始めます。この時点でBTは190度前後の値を示しています。

(3) Finishing: カラメル化反と最終調整段階

FC以降は急激に化学変化が進行し、味わいやフレーバーも変化していくので、どこで煎り止めるかに全神経をとがらせます。豆はさらに膨らみ、表面の皺も伸びて、綺麗な豆面になり、美味しそうな色合いになっていきます。そして、ここぞ、というところでフラップを開いて豆を排出(Drop)します。Finishing段階の調整だけで、同じ生豆から全く違う味わいの珈琲が作れます。スペシャルティコーヒー協会の規定では焙煎度合いにはライト~フレンチまで8段階ありますが、正確な境目があるわけではありません。一般には豆の色を元に焙煎士が決めるものですが、僕はさらにDrop時の豆温度も判断指標に加えています。例えば、BTが220度を超えるとシティロースト以上で、225度くらいならフルシティローストとしています。

CR600の調整ダイアル

Artisanの画面を見ながらこれらをコントロールするわけですが、主に現在の豆温度(BT)と温度上昇速度(ROR: Rate of Rise)を見て、ガス圧、エアーの強さ、ドラム回転速度などを調整します。この様子はまるでコックピットで乗り物を操るような感覚です。基本は RORが10-15度/分をキープするように、RORが下がってきたらガス圧を上げるかエアー(熱風量)を上げて、RORが上がり過ぎたらガス圧を下げてエアーも下げます。場合によってはテストスプーンを抜いて直接温度を下げたりもします。FC以降は頻繁にテストスプーンを抜いて豆色、豆面、香りを確認しながら、これらの調整も行うので、とても忙しくなります。

5. 焙煎終了

ドラムのフラップを開くと焙煎豆が一気に焙煎機の冷却ボールに出てきますので、焙煎機のフラワーバルブ(空気の通り道を変える装置)を開いて空冷モードに切り替えて一気に豆を冷やします。CR600の冷却機能はなかなか立派で、600gの豆も3分ほどで冷やすことが出来ます。急冷することでさらに香りのよい焙煎豆となります。

 

6. 仕上げ

焙煎後の豆は再度計量して、重量減や焙煎指数をチェックします。この二つの指標の関係は、重量減x焙煎指数=1,で、要するに焙煎前後の水分量変化を比率計算するときに、分母を生豆重量にするか、焙煎豆重量にするか、ということです。 僕は主に重量減で把握していますが、82~84%がほとんどの豆のスイートスポットで、それ以下ならフルシティローストかそれ以上の深煎り、それより大きい値ならかなり浅煎りであり、初めての豆でやるにはちょっとした冒険となります。最後に焙煎豆をザルの中で振りながら色づきの悪い豆(主に未成熟、死豆と呼ばれる欠点豆)を取り除けば完成で、アルミ蒸着袋に入れて数時間は少し隙間を開けて余分なガス(二酸化炭素)を逃がします。Degassing という処理で、さらに香りが良くなります。

水洗式コロンビア豆の焙煎による変化